4月は新しい扉を開ける月。
様々な別れの3月を経て迎えるこの月は、真っ新な気持ちになる人が大半だと思うのだけれど、
この作品は『4月は嫌い』とタイトルから否定しているところから始まる。大きく頷くほどその気持ちが分かるし、
強制的に新しい雰囲気を押さえつけられることが憂鬱で仕方ない。……と否定を言ってしまったけど、
この曲たちがドロップされる日を待ちわびていた。
イトウユキトの音楽には、瞬殺するほどの毒を甘ったるい砂糖でコーティングしたキャンディーのようなイメージを抱いている。
人間に潜む善と悪、外交的と内向的、ポジティブとネガティブ——表裏一体で入り乱れる感情を絶妙なバランスで成り立たせている。
だから、キャッチーなんだけど言葉が刺さり心に残ってしまって、私はその棘が取れずにいるのだと思う。
一人で何かを創り上げることは、『完成した』と判断するのが難しい。音楽だってそう。
彼の納得できる作品ができたこと、それによって自信を持てるようになったこと。
決着を付けることができたこの作品で、聴く人の心を掻き乱して欲しい。そして、彼の音楽から抜け出せなくなったらいい。
笠原幸乃(しゃちほこロック)
4月になりました。春ですね。
ぽかぽか陽気に、「いつまでもこんな日が続けばいいのに」と思う日もあれば、嵐もあれば、桜も散り。
そのうちすぐに、春は終わり。キモチのいいことは毎日続かないもので、だからこそ愛おしくなります。
イトウくんの書く歌は、いつも葛藤してるように見えます。
抱えてしまったモヤモヤや、どうしようもない遣る瀬無さの、やり場を探して、たどり着いたような音楽。
僕もそういうタイプなので、気持ちは何となく分かるつもりです。
こんな、どうしようもなく素敵で陽気な季節に、そんな音楽を聴く日があってもいいんじゃないでしょうか。
ヒゲドライバー
4月、クラス分けの掲示に目を通してあいつは同じクラスだとか、あの娘とは別のクラスになってしまっただとか、これから始まる新しい季節に胸を踊らせたり、憂鬱になってみたりする。
吹く風は生温くて、花粉症の先生はマスクをして涙目で。
そういえば先輩達はもう卒業してしまったんだよな、なんて思って。
「4月の習作」を聴いたときに浮かんできたのは学生時代の自分でした。
イントロが流れ出した瞬間に春へと引き込まれる感覚で、歌われる旋律はどこか淋しくて。
僕は生活にピントが合う楽曲が結構好きなんですけど、「満ちるに足りる」なんて、夜のベランダで缶コーヒーなんか飲みながら聴いたらたまらないだろうな。
イトウ君の創る色彩豊かな楽曲がとても好きです。
ちょっと良いep過ぎるんじゃない?
中川智貴 (sukida dramas)
一足早く音源聴かせてもらって、できたらレコメンを、って連絡もらったのがうれしくてずっと聴いてたら4月入ってた(〆切は3月末)。
これだから4月は嫌いだ(こじつけが不細工過ぎて泣きたい)。
そんなわけで後出しジャンケンのごとく、他の人のコメントを読んでからこうやって書いているわけなんだけれど(ヨシミツくんも書いてるんだね。彼も天才)、ユキトくん(は私が在籍していたバンドサークルの遠い後輩でもあるのでこうやって先輩面しているわけですね)の第一印象は「自信過剰な若いやつ」って感じだったんですけどね。
もし自分がユキトくんだとして、こんな名曲を作っていたらこう言うね。
「自信過剰で何が悪い!」とね。
はい、すいませんでした。先輩おごってました。早く生まれただけでした。
昭和生まれの老害危うく出すところでした。
聴くたびに思うのは「何このフレッシュ感」ってことなんですよね。表現ダサいですか?いやフレッシュでしょ。フレーッシュ!
(今スライのあのジャケットと同じ格好して叫んだところ。でも声はYOU THE ROCKの声マネをしながら)
メロディも展開も使い古されてなくて(こういうポップセンスがつい出てしまうことを才能と言うと思う。名曲を創るだけでは才能とは言わないと思う)、いつ聴いても新しい感じがするってすごくないですか?
と、さんざん持ち上げといてですね、ここまで何も知らない人が読んだとしてですね、「よしじゃあ聴いてみるか」となって、そして聴いてみてですよ!その人がどう思うかはね!知らない!知らないんだけど!
全然ダメ、って思う人いないと思うんですよね。最低でも「まぁ、一応聴ける」ってなると思うんですよね。そこが始まりだ!(そしてゴールだ!)
「聴きたくない」と「聴ける」の間には目には見えない(いや、見えるかもしれない。それはtwitterの中に、着る服のセレクトに)壁があって、前者であればもう出会うことはなく、後者であれば2度目がありえるわけですよね。
この2度目を聴きたくなるかどうか、がポップソングというやつですよね。
そんなポップソングだけが並んだこのepをチェックするのは、既読スルーするか悩む時間よりずっと有意義かと思いますよね。
1曲目のイントロリフで飯2杯いける(今3杯目よそったところ)。
個人的にはカーネーションの直枝さんとブラウンノーズが一緒に作ったアルバムの感じを思い出しました。本気でやった結果ちょっとだけ時空歪めちゃった感じ。さぁ歪めよう!
cafe & bar drawing 店主
今回、M-4 満ちるに足りるのギターと歌を担当しました。
新たな次元に行ったEPです。サウンドも、リリックも、楽曲も、洗練されてます。
とにかく、この音楽、たくさんの人に聴いてもらいたいです。才能と狂気を感じて頂きたい。
Washiyana Kazuki (Suspended 4th)
「まあちょっと腹が立つと仮定する。腹が立ったところをすぐ十七字にする。
十七字にするときは自分の腹立ちがすでに他人に変じている。
腹を立ったり、俳句を作ったり、そう一人が同時に働けるものではない。
ちょっと涙をこぼす。この涙を十七字にする。するや否やうれしくなる。
涙を十七字に纏めた時には、苦しみの涙は自分から遊離して、
おれは泣く事の出来る男だと云う嬉しさだけの自分になる。」
夏目漱石の草枕から。ユキトくんの音楽を聴くといつもこの言葉を思い出す。
ただの愚痴ならば聴きたくはない。それをちゃんと音楽に昇華してほしいのだ。
そこで初めて感動は宿るから。
心のゆらぎを愚痴から音楽へと昇華させる、その技術が彼の場合は圧倒的に長けていて
どんなに憤りや無力感を奏でていても、音符が喜んでるのがわかる。だから切ない。
「ベリーバトゥン」なんてバンドを組んでいるから、僕なんかは安易にジェリーフィッシュの音楽愛に似たものを感じてしまう。
前作もレビューさせてもらったけど、このEPでは明らかにその魅力に磨きがかかっていて、どの瞬間もメロディが本当に強い。
もちろん歌だけじゃなくて、ギターフレーズなどのアレンジも含めて。
メロディが強いから、2曲目のマウストゥマーチなんか、途中一瞬出てくるブリッジを除いて、1曲通してひとつのメロディで構成されてる。なにそれ。最高。
3曲目の満ちるに足りるもメロディから詞のテーマから本当に好きなんだけど、リードトラックの4月の習作はそんな彼の集大成だろう。隙なさすぎ。
前作と比べて、詞も一歩踏み込んでるし(一人称が一貫して「俺」ってのが好き)、生楽器と打ち込みの親和性もより出てきたし、メロディの強度も増してる。素晴らしいです。
実は彼とちゃんと向かい合って話したことは無いんだけれど、曲を作り終えて、嬉しくなってちょっと笑ってる顔はなんとなく想像できる。僕も同じだから。
高津 直視 (26時)
中毒性のあるメロディーと遊ぶようにポップに散りばめられた音は聴くほどに楽しくて、陽気な春みたいに心躍るのに、どこか不安定で憂鬱な感情が見え隠れしてる。4月は嫌いepというタイトルながら、景色も感情もこの季節にぴったりなので、楽しくて少し憂鬱な春を聴こう。
カワグチユキエ (mishca/me in grasshopper)
全体を通して春の音使いをしている。春の淡い桃色が目に浮かぶ。私の聴感的に音に四季のイメージをつけるとすれば、春はE♭のキーが一番しっくり来る。(ちなみに夏はF・B♭、秋はDm、冬はF♯だろうか。笑) ’M3/満ちるに足りる’はまさにそれで、イントロエレピのB♭/E♭の和音からすでに私の春メーターは振り切れてしまっている。
部分転調や歌詞の言葉回し、細かく解説して賛美したいところはたくさんあるが、レコメンドでやるには不相応なので泣く泣く割愛する。ユキトにはこれからも頑張って生きて、その奇才を遺憾なく発揮してほしい。
(M4/4月の習作(tor tor toor ver.)で参加しています。tor tor toor結成の理由の約3分の1でもあるこの曲とユキトに、この場を借りてお礼を。)
吉光俊介 (tor tor toor)
ユキトくんみたいな音楽。ユキトくんの身体から出てきたってことが不思議なくらいに当然に思える音楽。
近いようで遠くて、棘があるけど柔らかくて、美しくて汚くて、優しい。
日常に転がっている何でもないような普通の生活と一緒に、知らない場所までトリップする。そんな4月を感じました。
あー、なんかまた偶然に会って話したいことがあるような気がします。きっと、どうでもいいようなことを長々と。
Hayato Hioki (The Skateboard Kids)
ユキトくんの音楽の「前向き」なところが好きだ。
愚痴を吐いて厭世観を気取って終わり!ってせずに、常に前に"向かわねばいけない"としている。
そういう部分にとても共感が持てる。
それをぶっちぎりに最高なメロディに乗せてるから、素晴らしいに決まってるよね。
リードの「4月の習作」を中心に、「それでも誰かと生きていきたい」っていう普遍的で素敵なメッセージが伝わってきた。
人生ここぞって時は他人と本気でぶつからないといけない。
それこそ、それが"嫌なら死のうぜ”って思うし、言ってやりたい。
新しい季節、人間関係で色々しんどい4月に、ばっちりフィットするepだと思います。
これは余談だけど、コメントを書くのは2回目にも関わらず、彼とはまだ直接会って話したことが無い。
なのに僕の頭の中では結講気の合う友達みたいになってる。
すんごいヤなやつだったらどうしよう。笑
イラミナタカヒロ(花泥棒)